転職時に前職への照会は、原則として拒否できます。採用企業が前職の勤務状況や退職理由を確認する「リファレンスチェック」を行う場合でも、照会先への連絡や情報提供について同意を求められるのが一般的です。ただし、拒否したことで採用選考に影響する可能性はあります。
前職への照会を拒否できる理由
前職が、転職先の企業に本人の勤務状況や評価などを伝える行為は、個人に関する情報の第三者提供に当たる可能性があります。個人情報保護法では、原則として本人の同意がない状態で、個人データを第三者に提供することは認められていません。
そのため、転職先から「前職へ問い合わせてもよいか」と確認された場合、応募者は同意しないという選択ができます。個人情報保護法の第三者提供に関する規定は、個人情報の保護に関する法律で確認できます。
ただし、法令上拒否できることと、採用企業が拒否を選考上どう扱うかは別の問題です。企業がリファレンスチェックを採用判断の重要な条件としている場合、拒否によって「確認ができない」と判断され、選考に進めない、または不利になる可能性があります。
拒否すると採用されないのか
拒否しただけで、必ず不採用になるとはいえません。しかし、企業によっては、前職への照会を含む経歴確認への同意を選考条件にしている場合があります。
特に、次のような職種では、在籍期間や職務内容、資格、管理職経験などの確認を重視することがあります。
- 管理職や責任者として採用する職種
- 金融、医療、教育、警備など、経歴や資格の確認が重視される職種
- 機密情報や顧客情報を扱う職種
- 海外企業や外資系企業の採用手続き
一方で、前職の上司との関係が悪い、退職理由を知られたくない、在職中で転職活動を知られたくないなど、照会を拒否したい事情を説明すれば、別の確認方法を提案してもらえることもあります。ただし、企業ごとの運用であり、代替方法が必ず用意されるわけではありません。
前職が転職先に回答することも拒否できる
照会への同意があったとしても、前職が必ず回答しなければならないわけではありません。前職には、社内規程や個人情報の取り扱い方針に基づいて、回答を断る判断があります。
また、前職が回答する場合でも、在籍期間、所属部署、役職などの客観的な事実だけに限定し、勤務評価や退職理由などには答えない運用があります。前職がどの情報を提供するかは、前職の規程や照会内容によって異なります。
なお、労働者が退職時に請求する「退職証明書」には、在職期間、業務の種類、地位、賃金、退職の事由などを記載できます。ただし、労働者が請求していない事項を記載してはならないとされています。詳細は労働基準法第22条を確認してください。
照会に同意する前に確認すること
すぐに同意せず、何をどの範囲で確認するのかを確認してください。少なくとも、次の項目は採用担当者に質問しておくと安心です。
- 照会先は前職の会社か、元上司などの個人か
- 誰が、いつ、どの方法で連絡するのか
- 確認する項目は在籍期間、職務内容、評価、退職理由のどれか
- 照会結果を採用判断以外の目的に使うか
- 照会を拒否した場合、別の確認方法があるか
- 応募者が照会先を指定できるか
同意書に署名する場合も、対象者、確認項目、利用目的、情報の共有先が広すぎないかを確認しましょう。「前職に関する一切の情報」といった広い表現だけでは内容が分からないため、具体的な説明を求めることが大切です。
前職への照会を拒否する伝え方
拒否する場合は、感情的に説明するのではなく、転職活動中の事情や個人情報の取り扱いを理由に、代替資料を提示できるか相談すると伝わりやすくなります。
たとえば、次のように伝えられます。
前職への照会については、在職中の転職活動に知られる可能性があるため、同意を控えたいと考えています。職務経歴書、雇用契約書、退職証明書など、別の資料による確認は可能でしょうか。
前職との関係を理由にしたくない場合は、次のような伝え方もできます。
前職への直接の照会には同意できません。確認が必要な項目を教えていただければ、提出可能な資料や別の照会先について相談させてください。
すでに照会への同意書を提出している場合は、照会が実施される前に、採用担当者へ同意を取り下げたい旨を連絡してください。ただし、同意を取り下げた場合の扱いは企業の手続きや同意書の内容によって異なるため、選考への影響を確認する必要があります。
拒否を検討したほうがよいケース
次のような場合は、照会の範囲を限定できないか、または同意を見送れないか相談する価値があります。
- まだ在職中で、前職に転職活動を知られたくない場合
- 前職の上司や同僚に個人的な事情を知られたくない場合
- 照会項目に退職理由や健康情報など、必要性が不明な内容が含まれている場合
- 照会先や情報の利用目的が説明されていない場合
- 前職が正確な情報を提供しないおそれがある場合
ただし、拒否の理由を説明しても、企業が照会を採用条件としている場合は、選考を続けることが難しくなる可能性があります。拒否する前に、「照会なしでも選考可能か」「在籍証明などで代替できるか」を確認しましょう。
転職時の前職照会を拒否できるかの結論
転職時の前職への照会は、本人の同意を求められる場面であれば、原則として拒否できます。ただし、拒否によって採用選考に影響する可能性はあるため、照会の目的、確認項目、照会先、代替手段を確認してから判断しましょう。
最初に行うことは、採用担当者へ「何を、誰に、どの方法で確認するのか」と「拒否した場合の代替方法」を具体的に質問することです。







